【「貯蓄から投資へ」の嘘、あるいは嘘を支える情報の非対称性について】


http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100722/238005/
を読んだ感想(日経BPは、迷路のように煩雑だ)


思うに、「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズは、本末転倒です。
なぜなら、個人ではなく、銀行が自分で投資すれば済むことだからです。
そもそも、教科書的に申し上げて、銀行の存在意義は、『貯蓄を投資に回すこと』ではないですか? 


本当に儲かるのなら、相手がサラ金であっても、銀行が直接出資します。投資信託だって、本当に儲かるのなら、ダミー会社を作ってでも、国債を売ってでも、銀行が自分で買い占めますよ。信用創造を上乗せするので、同じ元金でも個人よりずっと儲けが大きいはずです。金融のプロなら誰だって、素人相手に、窓口で1万円ずつチビチビ売るような面倒なことはしたくありません。


その金融のプロが、自分で買う代わりに、業界ぐるみで素人に投資を勧めている。
金融のプロであるバンカーが捨てたリスクを、啓発本を数冊読んだレベルの個人が拾うのは、冷静に考えれば勝算の無い話だし、それを金融のプロが推奨するのは、珍妙で不効率な話です。


しかしながら、情報の非対称性が拡大すれば、(素人が増えるほど)業界は、潤います。401Kが良い例です。全ての商品と同様、情報が非対称なら、合理的な価格が形成されないのは、金融商品も同様です。今は、実態経済にドカンと投資するより、退職した素人相手に一見複雑な金融商品を売って、バレないように高い手数料を抜く方が儲かるのです。もちろん形式的な説明はしますが、顧客は理解できません(理解出来れば自分で株を買います)。


金融業界にとっての金の卵は、「実態経済における未開発部分」から「顧客との情報の非対称性」へと移っているのです。だから「貯蓄から投資へ」などという、銀行の存在意義を抹殺するような言辞が、業界の常識として流通可能なのです。


そのくらい、実態経済には投資先としての旨みが、枯渇しているのです。言い換えるなら、啓発本が言うところの《お金に働いてもらう》余地など、日本経済に無いのです。