【とにかく、総重量の軽い電子ピアノは連打性が悪いという偏見で】

 最近の電子ピアノの鍵盤のほとんどは、アクションハンマー鍵盤になっている。鍵盤につながったテコの先の錘(おもり)を上下させることで「手ごたえ」を生み出している。長いテコを使えば、より軽いおもりで、同じ「手ごたえ」が生み出せる。だから総重量を軽量に作るには、できるだけテコの長いハンマーを使えば良い。カシオのPX-120や、ヤマハのP-85は、そういう観点から作られている。88鍵を12キロ以下で作っているので、一人でも持ち運びできる。引越しも楽だ。実際良く売れている(これはとても大切なことだ)。
 
 だが、連打性を考えると、テコは短い方が良い。おもりの上下の落下に要する距離が短いほど、鍵盤の戻ってくる反応時間が短くなる。マウス絵で書いてみた(画面のサイズが小さいと絵の右端が見切れてしまうorz)。
 

 テコの長さ10センチ、100グラムのおもりが5センチ落下する(仮名;鍵盤A)
 のと、
 テコの長さ20センチ、50グラムのおもりが10センチ落下する(鍵盤B)
 のでは、静止時に指に伝わる重量感は同じでも、鍵盤が戻るのに鍵盤Bは1.4倍の時間を要する。落下距離を2倍に伸ばすと、落下に要する時間は√2倍(1.41倍)、3倍にすると√3倍(1.73)かかる見当になる(文系の中年故、物理計算に自信が無いし、正確には円弧形の運動だから直線運動とは違うな)。

 だから手に伝わる重量感が同じで連打性の良い鍵盤を作るには、テコが短く、おもりが重い鍵盤が必要になる。P-140(ヤマハ)やSP-250(コルグ)は、みかけはPX-120と同じように見えて、20キロ近くあるが、それなりの理由があるわけだ。階段だと持ち運びに辛い重さになるが…。

この理論を考えて、私はカシオとP-85(ヤマハ)を却下し、同価格帯で一番重いSP-250を注文したわけだが、実は少し後悔している。M-AUDIOのProKeys 88は、スピーカーレスで本体重量が21キロある。理論通りなら、まんざら反応の悪いタッチでもないはずだ。カシオやP-85あたりより連打性は良さそうだし、SP-250よりは音色が良さそうな予感がする。「高音側が軽くなっていない」とか「耐久性とアフターサービスの疑問」など、M-AUDIOにはツッコミ所があるだろうが、自分の理論の人柱になってみるのも、良かったのではないかという後悔が少しする。単にタッチが激重なだけ(=テコが長くて錘も重い)だったりして…。

さて、デジタルピアノの高級機は、本体重量80キロとかが、平気で存在する。もちろん、スピーカーの重さやテコ機構の複雑化や剛性確保分もあるので、全部が鍵盤の錘の重さではないだろうが、たぶん高級機は、私が連打性を喜んだSP-250よりは、ずっと反応性の良い鍵盤に仕上げることが可能だろうと思う。私はSP-250の連打性に喜んでいたが、たぶん、その筋の人から見ると、幼稚にも見えることだろう。KORGの同じRH3鍵盤でも、錘の取り付け位置と錘の質量が違っているのではないかと私は考える(というか私が設計者だったら絶対にそうする)。試弾せずにここまで言うのもおこがましいけど。