【なぜ、決算書の上で、原発が安く《見える》のか】

下記を見れば、原発は火力発電より安いように《見える》

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/economic/289324.html

 北海道電力は28日、2011年3月期決算を発表した。販売電力量増加などで売上高は前期比3・1%増の5662億7200万円。泊原発(後志管内泊村)3号機の本格稼働による燃料費減少などで、経常利益は同64・6%増の292億8700万円、純利益は同56・5%増の119億8200万円で、4年ぶりに増収増益となった。


この記事には原発の固定費が、読者の意識から隠蔽されるというカラクリがある。

原発は、固定費が高く、燃料費は安い。
・火力発電は、発電コストにおける燃料費の割合が高い。

固定費の大きな原発稼働率が下がると、原発の固定費と、火力発電の燃料費増のダブルパンチで、電力会社の収支は、一気に悪化する。

原発の固定費とは、建設費、送電設備、原発の夜間稼働率を上げるための揚水発電施設などで、これらは原発が稼働しようがしまいが、毎月の支払額が固定している。車のローンのように、年間走行距離に関わらず一定だ。


例えるなら、日本の電力会社は、既に2台の車を持っている宅配業者のようなものだ。
■1台は、400万円の電気自動車で、燃費は格安(ただし廃車コストは誰も知らない)。 原発
■もう1台は、200万円の普通車で、車両は安いが、ガソリン代が高い。 ←火力発電

この2台を既に所有していたら、誰だって「できるだけ低燃費の電気自動車を使い倒す」ように行動するだろう。

この状況で、電気自動車が故障したら、電気自動車のローンを払った上で、普通車の走行距離を倍にしないといけない(最初から、2台の普通車を買って、1台故障するより、ずっと頭の痛いことになる)。そして、電気自動車が復帰したら、ガソリン代が半分になり、決算が好転したように《見える》。電気自動車(原発)と、普通車(火力発電)が、総コストで大差がない場合でも、原発のおかげで収支が好転したように《見える》。


そして、実際の発電におけるコストは、原発も火力発電も、黒字が倍増するほどの大差はない。過去の電力会社の決算データに基づいて、原発の方が火力より高かったというNGOの意見もあるが、近年、原油価格は高騰しているので、今なら原発の方が安いのかもしれないし、LNGの値段は下がっているので、やはり火力の方が安いのかもしれない。燃料電池コージェネが伸びてくれば、また変わるだろう。原発の稼働年数が10年伸びて50年なら、原発の方が安いことも考えられる。ともあれ、よく引用されるような、原子力5.9円/Kwhというようなことはない(揚水発電と送電ロスを含めた上で、想定稼働率80%を実態稼働率60〜70%に合わせれば、火力と同じくらいにはなるだろう、というのが、私の丼勘定だ)。


引用元の記事に話を戻せば、北海道電力の2009年度の決算には、稼働する前の泊原発3号機の建設コストが含まれているから、減収なわけである。そして2010年度には、建設コストを3号機で償還し始めたから、黒字が倍増した。後は、原発稼働率を上げれば上げただけ、火力発電の稼働率を下げれば下げただけ、電力会社の決算は劇的に良くなる。そういう固定費の大きなビジネスモデルになっているということだ。

もちろん、これは事故を起こした時の補償費用とは別の、3.11以前の話であり、廃炉費用や燃料の最終処分の費用は考えていない。

ちなみに、電力会社が風力発電を目の敵にするのは、民間企業として、ある種、当然である。原発は柔軟な出力変動ができない。だから風車の電力の出力変動は、常に火力発電でバックアップしないといけない。その分、原発稼働率が下がる。電力会社にとっては、風力発電の電力を、強制的に買わされる値段以上の、痛手である。休んでいる原発のローンを、(風力発電仕入れ価格を払った上で)火力発電で補わないといけなくなるのだから。トリプルパンチだ。夜間のように消費電力の少ない場合は、むしろバックアップを放棄し、できるだけ原発を稼動させて、風力発電の電力を丸ごとドブに捨てる方が、(関西電力のような原発依存型の)電力会社にとっては、収益が良いはずだ。