【インドの農村には、なぜ軽トラが無いのだろう】

 インドのタタが、うわさの20万円カー、ナノを出した。これが「インド版のスバル360」なのだろう。外見は三菱アイ似。624CCの2気筒エンジンをリアに置く。30馬力程度。これで20万円というのは、少し高いかな、という気もする。たとえば日本のミラのバンやアルトのバンが、どちらも税抜きで62万5千円。ここからエアコン・ワパステエアバッグ、AMラジオ等を撤去したら、40万円くらいにはなる。そこから日本の販売手数料を抜けば、インドでもいけるんではないだろうか? 燃費はナノ等で同等で50馬力以上。100キロ巡航も楽にこなせる。というか、日本で20万円の中古のデミオの方が安心できそうだ。
 それより、日本がスバル360を作っていた頃を連想すると、タタはナノベースの軽トラをつくるべきではないかと、一瞬思ったんだけど、疑問が湧いた。インドの映像で、軽トラって見ないよな。
 
 インドの農村には、なぜ軽トラが無いのだろう。3輪バイクのタクシーがあるのだから、日本の昭和30年代みたいに、3輪の軽トラが活躍してても良いはずだ。軽トラ無しに日本の農村風景は成り立たないくらいなのに、なぜインドには、インドだけじゃない、世界の農村には軽トラみたいなジャンルの車が普及しないのだろう。
 そう考えれば、日本の農村風景というのは、世界から見て、かなり異質なものだと分かる。軽トラのある風景とは、つまり大型トラックを必要としない、耕作面積の少ない零細農家が多数派になっている状態だ。更に、その零細農家の各一件一件が軽トラを買えるだけの購買力を農産物から得ていないと軽トラは普及しない。これは、農産物1単位に必要な人間の数が多いという意味では、非効率なことであり、同時に、少ない土地面積から高い収益を挙げているという意味では生産性が高いとも言えた。

グローバルスタンダードでは、農産物一般は、こんなに狭い作付け面積で、軽トラが買えるほどの利潤を農村にもたらすことは絶対にない。インドを含む世界基準では、農地とは、ずっと生産性が低いものなのだ。人間が食えるくらいの物量を作るには大きなトラックが必要になるか、あるいは運送業者に委託する必要がある。日本は、耕作面積が狭く、単価が高く、耕作地が入り組んでいるので、運送業者に委託するより、各戸が自前で軽トラを買う方がマシなのである。正にガラパゴス。1960年代から半世紀だけ続いた、シャングリラであった。