【V-Pianoの試弾会があったので行ってみた】

 パルコ9階の島村楽器V-Pianoの試弾会があるというので、行ってきた。V-Pianoというのは、ローランドの新音源デジタルピアノ。仮想弦、仮想共鳴板、仮想ハンマーを設定し、音の挙動を操作することができる。公式デモは下記。あまりインプレを見かけないので、インプレしてみるが、当方ピアノの高等教育ゼロであることは断っておく。試弾会は個室の貸しスタジオでセットされ、持ち時間は一人30分。

 http://www.roland.com/V-Piano/ 

下記はyoutubeのデモ
http://www.youtube.com/watch?v=nmwO9qGhJUU
http://www.youtube.com/watch?v=sfdIvyfENHc&feature=related

鍵盤のタッチは全く問題ない(ヤマハのデジピより少し重いか)。mfからfにかけての、多彩で、ダイナミックで華やかな音色変化は、生ピアノ派の人も、一度は触ってみる価値があると思う。All Silverという音色など、どぎついくらい華やかだ。ffになるとスピーカー側の限界が出てくる(これは録音やヘッドフォンなら問題ないだろう)。ppは生ピアノの方が弾き心地が良い。ダンパーを踏み込んで、分散和音をppで弾いたときの、筐体全体から弾き手を包むようなフワっとした感じは残念ながら(あるいは当然ながら)無かった。このあたりの処理は、ヤマハのDGPなんかの方が上手い。

本体60万円という値段的に、どうしてもヤマハのDGPあたりと比べられると思うが、単に弾いただけの感じは、既存の高価格のデジタルピアノの方が、ピアノに似てるな、という印象だ。これはスピーカーの差が大きいと思う。試弾会でセットされていたのは、ペアで7万円相当のモニタスピーカーと高さ50センチ×幅80ほどのスーパーウーハーの2.1chだったから、別に安物ではないが、専用スピーカーを専用にセットした既存のデジタルピアノとはハンディがある。

乱暴に言うなら、家でクラシックの練習で弾くなら、DGPの方がグランドピアノに似ていると思う。一方で、本気でCDを作るつもりで録音するなら、あるいは音色の道を究めるのなら、V-Pianoの方が、今までのピアノに無い多彩な音が出せる潜在力がある。もう死んでしまったが、グレン・グールドみたいなヤツ(生演奏がキライで、録音が好きで、神経質で凝り性。イスの高さ調節で30分も人を待たせた伝説がある)にV-Pianoを押し付けて、CDを作らせるのが、理想的なV-Pianoの使われ方だと思う。

ローランドの営業の方は、音色をいじったりして、細かく対応してくれた。買うつもりも無いのに、「あそこの高さの音が悪い」だの「スピーカーとヘッドフォンは音源に相応しい、もっと良いのを」だの愚痴ばっかり言って申し訳なかった。

そうだ、最大の問題は「買うつもりが無い」という部分だ。こんなに良い音なのに、なぜ「買う気」が全く起きないのだろう。少し調律の狂った公民館のアコピよりは確実に良い音だ。私は、4万5000円のSP-250に、ヤフオクなら1万円もしないMU80を繋げて、ミキサーで2:8の割合でブレンドして使っているのだが、こんなゴミのような音源で、私が満足している(というか「別にいいや」という気持ち)のは何故なのだろう? V-Pianoでも弾けば、少しは嫉妬にも似た、20世紀に感じた、なつかしい物欲が沸くかとも思ったが、そうはならなかった。

私はグレン・グールドみたいに、音色の奥の奥までイジリ倒す、そんな執念も時間も才能も無いからか? あるいは、もう若くないからだろうか? 5年後に、更にパワーアップした「V-Piano2」が出てくることが分かっているからか? 

なんだか、V-Pianoに格負けしたような、それなのに弾き心地は物足りないような、妙な気持ちで、持ち時間は過ぎた。貧乏人の期待しすぎだったのかねぇ。試弾会と言っても、単に一人で弾くだけでは物足りない。出来ればピアノの講師みたいな、弾ける人の話が聞いてみたかった。相談すべき師匠が居ないのは、独学の悲しいところですね。